ワラビーに出会った日

25日目(3月23日)/Yulara→Alice Springs

朝8時20分頃Motor Campを出発する。Backpackを忘れたことに気付きあわてて引き返す。彼女が、OfficeでOn site vanの鍵をもらってBackpackを取りに行ってくれた。

8時25分、今度こそ出発する。今日はKings canyonへ行った後、Alice Springsへ向かう。Kings canyonからAlice Springsまでの約200kmは未舗装路だ。Caravan parkの人によれば、4WDではない普通の車でも通行できると言っていたが大丈夫だろうか。Marlaの集落のはずれの未舗装路の入り口に、「警告、 4WD以外進入禁止、2つ以上のジャッキ、2つ以上のスペアタイヤの携帯必須。」と書いた看板があったのを思い出す。
間もなく到着というところでRanger stationがあったので立ち寄る。看板に、周辺のトレッキングコースが紹介されている。1hr returnの簡単そうなトレッキングコースがいくつかある。それらに比べると、我々の行こうとしているKings canyonのトレッキングコースは6km, 3~4 hour return、しかも坂道ありと随分過酷そうだ。Ayers rockのように手をついて上らなければならないところもあるかもしれない。彼女は少し不安そうだ。
肝心のRanger stationには誰も人がいない。地図はもらえそうにない。そんなに長いコースを地図なしで歩くことはできるのだろうか。

Kings canyon

Kings canyon car parkに到着。10数台の車が停まっている。Informationの掲示板の前にも何人かの人がいる。これから上ろうとしている老夫婦が真剣に看板でコースのチェックをしている。相変わらず、水を十分に補給しないと危険だと警告が出ている。何人かの人がその場にいた女のRangerの説明を聞いている。みんな不安なのだろうか、Rangerの人に質問が殺到している。どうやら最初の坂はかなり急なようだ。逆回りに進めば、急坂を上らなくてもすむというが、急坂を降りる方が怖いので通常通りの道を行くことにする。
前から男のRangerが降りてきたので、「Ayers rockよりも難しいか。」と聞くと、"It's easier."と答えてくれた。「地図がないけど大丈夫か。」と聞くと、「コースにはマークとなる杭があって、次の杭は見通すことができる場所に立てられているので心配することはない。」と教えてくれた。不安が大きかったので、この二言にはかなり勇気づけられた。

上る前に昼食をとる。さすがに蠅が凄い。また、車の中で窓を閉め切って食べる羽目になる。
12時30分、凍った水が入った1.5lのペットボトル2本を持って出発。1時間に1lの水が必要だとすると、3~4hr returnなら単純計算で6~8lの水が必要だ。我々の持った水では不十分だ。だが、あたりを見回しても我々ほどたくさんの荷物を持った人はいない。みんな、小さなペットボトルを持っているだけに過ぎない。

いよいよ上り始める。最初は急な階段が続く。Ayers rockのように鎖に掴まったり這ったりしなければならないところはないが、階段が何しろ急だ。Ayers rockとは異なり所々に草が生えている。木が茂っているところもある。だが、どの草木も半分枯れたような様相をしている。葉の色も、緑とはほど遠く、黄土色っぽかったり、茶色っぽかったりする。
階段を上りきると、岩だらけの道が続いている。

岩だらけの道

その岩だらけの道を、杭を頼りに進む。ここまで来ると、人にもあまり会わなくなる。ましてや、Ayers rockにあれほどいた日本人は皆無だ。
窪みになっているところや、谷になっているところに若干の植物が生えている。しかしこれらもやはり、死んだような色をしている。
道は、心配していたよりもずっと簡単でAyers rockのように手をついて上らなければならないところはない。
Lookoutを見つける。

ひらけた渓谷

すぐ横の木陰で、老夫婦がLunchを食べていた。渓谷峡谷の谷間から遙か下の風景が見える。とても綺麗、いや綺麗と言うよりも凄い。説明のプレートが、英語、ドイツ語、フランス語で書かれていた。このあたりは、かつて海だったそうだ。確かに、さざ波の模様ができた岩がある。
相変わらず乾いた岩だらけの道が続く。地面も岩盤でAyers rockと同じだ。とてもごつごつしている。人一人しか通れないような谷や坂が続くが、Ayers rockよりははるかに簡単だ。

岩だらけの道

ずっと杭通りに進んでいたが、途中で道がなくなり崖になっている場所に行き着いた。横を見ても通れそうなところはない。あたりはどちらを向いても同じ景色なので、杭がないとどちらに行けばよいか全くわからなくなってしまう。後ろから、西洋人の若者が3人連れでやって来た。「道がない。」と教えてあげると、そんなことはないというような顔をしていったん我々の進んだ方向へ行き、道が本当にないことを確認して、横の崖を上って道を探していた。そして、次の杭を見つけ、進んでいったので我々も後に続く。
地面に大きな裂け目があるのに気付く。

大きな裂け目

足元からずっと崖のほうまで延びている。凄い亀裂だ。5cmほどの隙間から石を落とすと、ポチャンという音がした。下には水があるようだ。生物は住んでいるのだろうか。こんなところは誰も調査しそうにないから、新種の生物が見つかるかもしれない。
深い崖を横目に見ながらさらに進む。しばらく行くと階段があった。大きな谷を下り、途中にある小橋を利用して隣の山へ行く。遙か下には池があって誰かが泳いでいる。こんなところに水があるとは思っても見なかった。だが、考えても見れば、水が溜まるのもおかしくはないような気もする。まわりは谷に囲まれていて陰なので薄暗い。日が当たらなければ確かに水は蒸発しにくいだろう。また、岩盤なので水は浸透しないということも水が溜まる一因になっているのではないだろうか。
そして、その池で誰かが泳いでいる。水は、決して綺麗そうではないが楽しそうだ。池のまわりは苔が生えているようで緑っぽい色をしている。このあたりではきわめて珍しい光景だ。だが、薄暗いこともあり、汚らしく見える。流れがないので苔もなおさら生えやすいのだろう。
看板を見つける。英語の看板に、盆栽のようなガムの木が岩場から生えている様子を表して、"Nature Bonsai"と書かれていた。
次のLookoutは、大規模な岩盤の崩壊だ。とても固い岩盤が垂直に崩れている。

岩盤の崩壊

地層がむき出しになっている。あまりにもスケールが大きいので表現することが難しいが、とにかく凄い。しかも、最近崩れたのか、岩肌がつるんとしていて全く浸食の後もない。そして、崩れた岩の残骸が遙か下にたくさん転がっている。このKings canyonには誰も人が住んでいないし、この光景がみっともないなどという人はいないだろうから、これらの残骸も処理されることもないだろう。
だらだらとした下り坂が続いて、しばらく歩くと駐車場が見えてきた。1周ほぼ2時間。長く歩いたわりにはそんなにくたびれてはいない。充実していたからに違いない。とても有意義なトレッキングだった。凍らせた水はとけずにまだ残っている。やはりこれだけの水は必要なかった。保険みたいのものだ。これでよしとしなければならない。

アウトバックの未舗装路を走る

今日中にAlice springsに辿り着かなければ野宿になってしまうので、すぐに車を進める。現在の時刻は午後2時。Alice springsまでは300kmだが、途中100kmほど未舗装路を通らなければならない。Ayers rockのCaravan parkの人は、普通の車でも走れると言っていたが、どれくらいのスピードで走ることができるかは全くの未知数だ。ずっと100km/hで走れば夕方には Alice springsに着くが、未舗装路の状況によっては夜になるかもしれない。カンガルーの飛び出しがあるので、夜のOutbackでの走行は危険だ。
途中のKings creekというガソリンスタンドしかない町で給油する。99.5c/lという金額に驚くが、ガス欠になったら冗談ではなく、本当に死んでしまうかもしれないので不満は言ってられない。
ガソリンスタンドの横にはラクダが飼われていた。1コブラクダだ。オーストラリアのアウトバックには、飼育、野生の両方を併せるとかなりのラクダが生息していて、一部は中東方面に輸出されているという。かつては中東では生活のためにラクダが飼われていたが、現在はあまり数は多くないようだ。そこで、オーストラリアからラクダを輸入しているというわけだが、このラクダが元々中東から輸入されたものだということだからおもしろい話だ。
Kings creekからAyers rockから来た道を南へ63km進んだところに分岐点がある。ここで左折し、Stuart highwayの方への近道をとる。
舗装が施されていたのでほっとしていたら、すぐに未舗装路になった。道が波板状になっていてとてもガタガタ揺れる。ガイドブックによると、この波板状の道路のことを英語でコルゲートというらしい。30km/h程度までスピードを落としてみるが、揺れは強くなるばかり。逆に速く走った方が揺れは強くないようだがスピードを出すのも怖い。交通量はほとんどないと思うが、もし前から車でも来たら大変だ。急ハンドルは切れないので慎重にならざるを得ない。いろいろスピードを変えてみて適切な速度を探す。道路端は車があまり通らないためか砂が柔らかかくて走りやすいところもあるが、それも長くは続かない。そのうちに揺れにも慣れてきて80km/hで走ることができるようになる。後は前から車が来ないことと、揺れで部品が落ちてしまうことがないことを祈るのみだ。これでこのガタガタがなければラリーのようでとてもおもしろいのだがそうもいかない。ただ雰囲気はゲームセンターのゲームに出てくるような風景とそっくりだ。

アウトバックの未舗装路

ユーカリの疎林が続くと思ったら、突然灌木の大地になったり、景色がよく変わる。けれど、基本的に地面は赤茶けている。コルゲートは相変わらずだ。かなり揺れているにもかかわらず、彼女は隣で眠っている。Kings canyonでよほど疲れたのだろう。
1時間くらい走った頃から、あたりはほとんど木も生えていないような景色に変わる。枯れ川の跡がくっきりと残っているのが見える。車を停めてじっくり見ると、深さ1mくらいのものもあった。

そして、遙か遠くでは野生の牛が一列に並んで傾きかけた太陽の方へ歩いている。なんてすばらしい光景なのだろう。しかもまわりには何もない。眺望を遮るような柵もむろんどこにも見当たらない。怒って突進してきてもふさぐ手だては何もない。アフリカの僻地にでも来たような気分だ。いや、ここはそれ以上に僻地なのかもしれない。結局、100kmの未舗装路の間、1台の車ともすれ違わなかった。最後にここへ来たのはどんな人でいつ頃このあたりを通過したのだろう。そして、この後、人がここを通るのは何時間後だろう。もしかしたら、何日か誰もここを通らないかもしれない。
Stuart highwayに復帰する。何としてでも夕暮れまでにAlice springsへ到着するぞという意気込みで急ぐが、時間的に間に合いそうにない。とにかく、できるだけ急ぐ。
すぐ前のRoad trainを追い越す。その前もRoad trainだったので続けて追い越す。カーブだったので怖かったが、幸い対向車はなかった。さすがにRoad trainは長い。
無情にも日が沈み始める。ちょうど左手に見える太陽が眩しい。ここから1000kmは北上するのみなので左が西、右が東とわかりやすい。それにしても眩しい。早く沈んでくれとさえ思ってしまう。
ついに暗くなる。あれほど眩しかった太陽が嘘のようだ。とても暗い。カンガルーが飛び出してこないか心配だ。100km/hで走っているので目が光っていてもわかるはずもない。

アリス・スプリングス

しばらくたって、ようやくAlice springsに到着。久々に見る街灯が何故だか新鮮だ。信号まである。車線も2車線だ。
すぐに、Caravan parkを探す。$39/泊のMotel unitが空いている宿を見つける。少々高いが時間もないのでここに決める。さすがに高いだけあって設備が充実している。シャワートイレ、そして、テレビまでついている。併設のスーパーも小さいながらも9PMまで開いている。すぐに食料を買い込み夕食をつくる。夕食は、ジャガイモとコンビーフの炒め物、 Curry seasoning rice、そしてみそ汁だ。

ワラビーが来た!!

夕食後、ベランダの戸を開けると、何とワラビーがいるではないか。しかも1匹ではなく集団のようだ。隣の人が餌をあげているようなので、負けじと我々もジャガイモを与えると、喜んで近寄ってきた。そしてニンジンを手に取り、ボリボリと音を立てて美味しそうに食べる。

ワラビー

最初は遠くに餌を投げていたが、写真を撮るために近くにおびき寄せる。そして何枚か写真を撮る。あまりに可愛いので、ニンジンやジャガイモを切り刻み、小出しにしながら近くにキープする。隣の人も負けじと餌をやるので遠くへ行ってしまったりもする。裏山の崖に大きなカンガルーを発見した。そのカンガルーがガサッと音を立てた瞬間、ワラビーはものすごい早さで山に戻っていった。凄い後ろ足の力でぴょんぴょんと跳んでいく姿が印象的だった。
しばらくすると、再びワラビーが戻ってきた。今度はさらに近くで写真を撮るために、餌を持って外に出る。隣の人に迷惑にならないよう少し離れたところへ行き、餌を撒く。するとすぐに近寄ってきて餌を食べ始めた。見ていると、さらにこちらに近づいてきた。手に持っている餌に興味があるようだ。手をさしのべると何と、目の前までやってきて、手から餌をとった。だいぶ人になれているようだ。写真を撮るために餌を地面に置き、カメラを構える。あまりに近すぎるので焦点が合わない。少し離れてシャッターを押す。距離も近く、しかもある程度街灯の照明もあるので、ニュージーランドのOamaruで撮ったペンギンの写真のように写っていないこともないだろう。
ワラビーが出てくる崖に面しているのは、我々の泊まっているMotel unitのみだ。宿泊料金の$39にこのサービスが含まれていると思えば安いものだ。

勉強が苦手なボクの英語日記 ワーホリを終えて

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